入船(いりふね)出船(でふね)
入り船、三艘(ぞ)、
何積んで入(はい)つた。
三つ星、三つ、
三角帆にかァくれた。
出船が、三艘(ぞ)、
何積んで出たぞ。
赤い灯(ひ)がつゥぎつぎ、
黒い帆にかァくれた。 赤い鳥・大正14年1月号
偶然にもこの赤い鳥の地方童謡欄(白秋選)に、テルの送った手まり唄も載っている。
仙崎地方の手まり唄
姉さん姉さん/田をつくれ、/一反つくれば二千石、
二千石の大かめを、/めいじにたいて富士の山、
富士のお山のその先に、/うつくし鳥が、/三羽おる。
一羽の小鳥は/立つて鳴く。/二羽の小鳥は、/伏せて鳴く。
なして鳴くぞと/ 問ふたれば、/けふは吉日/親の日ぢや。
あすは天下へ/のぼる日ぢや。/さあ、一町二町三町四町
五町六町七町八町九町十町。
坊さん坊さん、/おまへの屋敷、/りつぱな屋敷、
梅の木三本、/ざくろが三本、/合わせて六本、
からからから梅、/からす一羽で/わァたした、わァたした。 (長門仙崎地方・金子みすゞ氏報)
仔牛(べえこ)
ひい、ふう、みい、よ、踏切で、
みんなして貨車をかずへてた。
いつ、むう、ななつ、八つめの、
貨車に仔牛(べえこ)がのつてゐた。
賣られてどこへゆくんだろ、
仔牛ばかしで乘つていた。
夕風つめたい踏切で、
皆(みんな)して貨車をみおくつた。
晩にやどうしてねるんだろ、
母さん牛はゐなかつた。
どこへ仔牛(べえこ)はゆくんだろ、
ほんとにどこへゆくんだろ。 赤い鳥・大正14年2月号
土(つち)
こつつん、こつつん、
打(ぶ)たれる土は、
よい畑になつて
よい麥生むよ。
朝から晩まで
踏(ふ)まれる土は、
よい路になつて、
車をとほすよ。
打(ぶ)たれぬ土は、
踏まれぬ土は、
要らない土か。
いえいえ、それは、
名のない草の、
お宿をするよ。 童話・大正14年2月号
ひろいお空(そら)
私はいつか出てみたい、
ひろいお空の見えるところへ。
町でみるのは長い空、
天の川さへ屋根から屋根へ。
いつか一度は出てみたい。
その川下の、川下の、
海へ出てゆくところまで、
みんな一目にみえるところへ。 童話・3月号
獨樂(こま)の實(み)
赤くて小(ち)さいこまの實よ、
あまくて澁(しぶ)いこまの實よ。
お掌(てゝ)のうへでこまの實を、
一つまはしちや一つたべ、
みんななくなりやまた探す。
ひとりだけれど、草山に
あかいその實はかず知れず
茨のかげに、のぞいてて、
ひとりだけれど、草山で、
獨樂(こま)をまはせば日も蘭(た)ける。 童話・4月号
目下のところ、生活に関しては心配がないテルは、意欲的に投稿を続けていた。童謡を創作するばかりでなく、数多い雑誌に発表される詩や小曲を集めて、「童謡・小曲 琅玕集」を作ることにも手を染めている。赤い鳥や令女界、コドモノクニなどから気にいった作品を選び出しては、1925年版のポケット手帳に書き写していく作業だが、テルは最終的にこの自選集を二年がかりで完成させている。
この頃には童謡投稿家の勢いを象徴するかのような、自家版の純童謡誌曼珠沙華が発刊されている。この同人名には佐藤義美、島田忠夫と並んで金子みすゞとあるから、おそらくは作品も出したのだろう。
活版刷りで作られたとされる現物は見つかっていないが、活字化されしもの、と手帳に○印がついている中から、二点ほど有力な候補作があげられる。
土と草
母さん知らぬ
草の子を、
なん千萬の
草の子を、
土はひとりで
育てます。
草があをあを
茂つたら、
土はかくれて
しまふのに。 (曼珠沙華・大正14年2月)
薔薇の町
みどりの小徑(こみち)、露のみち、
小みちの果は、薔薇の家。
風吹きやゆれる薔薇の家、
ゆれてはかをる薔薇の家。
薔薇の小人はお窓から、
ちひさな、金の翅みせて、
おとなりさんと話してた。
とんとと扉(どあ)をたたいたら、
窓も小人もみな消えて、
風にゆれてる花ばかり。
薔薇いろのあけがたに、
たづねていつた薔薇の町。
その日
わたしは蟻でした。 (曼珠沙華・大正14年2月)
この後でみすゞは義父から縁談をすすめられ、断り切れずに承知するのだけれど、他の人たちは仕方なく渋々と承諾したように書いているが、私はそうではなく、みすゞの方でも相手となる宮本には好意を寄せていたという説を展開している。それは母ミチにもわかっていたことであって、詳しくは本書を読んでください。注文ファクス042-537-6724です。
金子みすゞ 金子みすゞさんのことを書きました。わかれ童謡(うた)追憶のみすゞ
金子みすゞさんが生前発表した100作品を網羅、母と娘のまなざしをも通して生涯を綴る。 金子みすゞの魅力を、力不足を知りつつも書いてみたいと思いました。 仙崎、下関、青海島など取材、著作権があるから勝手にはさせないぞと主張する某出版社の妨害にも負けずに、 A5版220ページの本ができました。 自費製本ですので、応援する意味を込めてご注文願えるとありがたいです。
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